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調査レポート

建築職人の報酬と評価の実態 ── 賃上げの恩恵が届かない現場で、何が起きているのか

「賃上げ」が社会全体のテーマになっています。2026年の春闘では、連合の第3回回答集計(2026年4月3日公表)によると、平均賃金方式での賃上げ率は5.09%と、全体・中小組合ともに5%台の高水準が続いています。建設業界でも国土交通省と建設4団体が技能者賃金の「おおむね6%上昇」を目標に掲げ、公共工事の設計労務単価は13年連続で引き上げられました。制度の面では着実に前進しています。
ところが、実際に現場で手を動かす職人の実感は、どうでしょうか。建築市場株式会社が一都三県の建築施工職人103名を対象に行った調査では、約8割が「賃上げの恩恵を実感できていない」と回答しました。本稿では、この調査データと公的機関の統計を突き合わせながら、建築職人の報酬・評価をめぐる現状と、改善に向けた手がかりを整理します。

■ この記事でわかること

  • 約8割(78.6%)が、ここ1年の賃上げの動きを自身の報酬に「実感していない」と回答
  • 57.3%が「価格競争に巻き込まれている」と実感。理由の1位は「中間マージンの多さ」
  • 78.6%が「施主と直接つながり、コスト構造が明確な取引環境」で働き方が改善すると期待

賃上げの恩恵は、現場の職人に届いているのか?

約8割の職人が、直近1年間の賃上げの動きを自分の報酬に反映されていないと感じています。Q1で「ご自身の報酬に反映されていると実感していますか」と尋ねたところ、「全く実感していない」が45.6%、「あまり実感していない」が33.0%。合計78.6%です。「やや実感している」は11.7%、「非常に実感している」は9.7%にとどまりました。

出典:建築市場株式会社「建築施工職人の働き方と報酬に関する実態調査」(2025年11月、n=103)

かなりの数字です。世の中では「賃上げ」が盛んに報じられている中で、現場で家を建てている職人の8割近くが「自分には関係ない」と感じている。このギャップはどこから来るのでしょうか。

手がかりの一つが、公共工事と民間工事の違いです。国土交通省は2025年度の公共工事設計労務単価を全国全職種で前年度比6.0%引き上げました。13年連続の上昇で、加重平均の日額は2万4,852円──公表開始以来の最高値を7年連続で更新しています(出典:国土交通省「令和7年3月から適用する公共工事設計労務単価について」)。ただし、国土交通省自身も認めているとおり、民間工事では価格転嫁が十分に進んでいません。本調査の回答者は一都三県の職人で、民間の住宅工事に携わるケースが多いと考えられます。公共工事の単価が上がったからといって、民間の住宅現場の報酬がそのまま上がるわけではないのです。

もう一つ、気になるデータがあります。日本建設業連合会の資料によると、建設業の男性生産労働者(現場作業員)の賃金は、製造業の男性生産労働者を依然として下回っています。国土交通省の資料でも、技能者の実年収432万円に対して設計労務単価ベースの想定年収は520万円と、約90万円の開きがあることが指摘されています(出典:日本建設業連合会「建設業の現状」4.建設労働、国土交通省資料)。制度上の単価と、実際に職人が手にする金額。このあいだの差を埋めることが、今の建設業界の大きな宿題です。

職人の技術は、正当に評価されているのか?

報酬が上がらない背景をもう少し掘り下げてみます。Q2では、「技術・仕事の質が正当に評価されていると感じるか、それとも価格競争(安さ)に巻き込まれていると感じるか」を尋ねました。

出典:建築市場株式会社「建築施工職人の働き方と報酬に関する実態調査」(2025年11月、n=103)

「価格競争に巻き込まれていると感じる」が30.1%、「どちらかといえば価格競争に巻き込まれていると感じる」が27.2%で、合計57.3%。一方、「技術・仕事の質が正当に評価されていると感じる」は4.9%、「どちらかといえば評価されている」は25.2%で、合わせて30.1%。「どちらともいえない」が12.6%でした。

過半数が「価格で比べられている」と感じている。では、残りの約3割が「技術が評価されている」と答えた理由は何でしょうか。Q4でその31名に尋ねたところ、最多は「元請けや設計者と、対等な立場で技術的な協議や提案ができるから」(45.2%)。2位は「技術を理由に指名で仕事が来る」(29.0%)、3位は「施主や設計者から仕事の質を直接評価される」(29.0%)でした。対等にやりとりできる関係性が、評価実感の大きな要因になっているようです(※ただしn=31の少数回答なので、あくまで傾向として見る必要があります)。
2025年の内閣府「経済財政白書」でも、建設業は「人手不足感が高いにもかかわらず、賃金が十分に伸びていない産業」の一つとして取り上げられています。同白書は、こうした産業では「市場メカニズムだけでは解決が難しい何らかの制約に直面している可能性がある」と分析しています(出典:内閣府「令和7年度年次経済財政報告」第2章第2節)。「技術があっても価格で比べられる」という職人の実感は、こうした分析と重なる部分があります。

なぜ価格競争に巻き込まれるのか?──職人が挙げた理由を読み解く

Q2で「価格競争に巻き込まれている」と回答した59名に、その理由を複数回答で尋ねた結果がQ3です。n数は59名で、全体103名から価格競争を実感している層に絞った設問になります。

出典:建築市場株式会社「建築施工職人の働き方と報酬に関する実態調査」(2025年11月、n=59)

上位5項目を順に見ていきます。1位「元請けや上位の会社による中間マージンが多いから」(45.8%)、2位「相見積もりで買い叩かれ、適正な価格が反映されないから」(42.4%)、3位「価格交渉の場がなく、元請けから提示された金額をのむしかないから」(40.7%)、4位「業界全体として、技術よりも価格(安さ)を優先する風潮が強いから」(39.0%)、5位「技術の難易度や専門性を理解してもらえないから」(28.8%)。
1位から3位は、いずれも40%台でほぼ横並びです。1位の「中間マージン」は、建設業界に長く根づいてきた分業体制──元請けから一次下請け、二次下請けへと工事を分担していく仕組み──の中で、各段階の管理コストが積み重なり、最終的に職人の手元に届く金額が限られてしまうという課題です。元請けや中間の事業者にもそれぞれの経営コストや役割がある一方で、末端の職人から見ると「自分の技術に対して十分な対価が回ってこない」という実感につながっています。
2位の「相見積もりで適正価格が反映されない」(42.4%)は、複数業者の見積もりを比較する中で、結果的に価格の安さが優先されがちな状況を指しています。発注側にも予算の制約がありますから、一概に誰かが悪いという話ではありません。ただ、技術の質や経験値が価格に十分反映されにくい仕組みになっている、という点は職人にとって切実な問題です。3位の「交渉の場がない」(40.7%)は、金額について話し合う機会そのものが少なく、提示された条件をそのまま受け入れるケースが多いことを表しています。
4位の「業界全体として価格を優先する風潮」(39.0%)も約4割に達しています。これは特定の取引先の問題というよりも、業界全体の商慣行に対する声でしょう。5位の「技術の専門性を理解してもらえない」(28.8%)は、上位3つとはやや性質が異なり、技術の価値を伝え合う機会が業界全体で不足していることへの課題意識です。
この点に関連して、2025年12月12日に全面施行された改正建設業法では、「標準労務費」の勧告制度が導入されました。中央建設業審議会が職種別・地域別の適正な労務費基準を作成し、見積書への労務費の内訳明示が努力義務化されています。基準を著しく下回る見積りや原価割れ契約も禁止されました(出典:国土交通省「改正建設業法に基づく労務費の基準について」)。この制度改正は、発注者・元請け・下請け・職人──それぞれの立場にとって、取引の根拠を明確にする仕組みです。施行から日が浅い段階ではありますが、業界全体で報酬のあり方を見直すきっかけになることが期待されています。

84.5%が「子どもに勧めたくない」──このままで次世代は育つのか?

報酬が上がらず、技術よりも値段で比べられる。そんな環境が、職人の将来展望や次世代への継承意欲にどう影響しているか。Q7で「お子さんや親しい若者に、今の建築業界でご自身の職業(職人)に就くことを勧めたいか」を尋ねました。

出典:建築市場株式会社「建築施工職人の働き方と報酬に関する実態調査」(2025年11月、n=103)

「全く勧めたいと思わない」が35.0%、「あまり勧めたいと思わない」が49.5%。合計84.5%です。「勧めたいと思う」は13.6%、「ぜひ勧めたいと思う」は1.9%にとどまりました。
84.5%。重い数字です。ただし、この調査だけでは「勧めたくない」理由が報酬なのか、長時間労働なのか、将来性への不安なのか、切り分けることはできません。前述の賃上げ未実感(78.6%)や価格競争の巻き込まれ感(57.3%)との関連は推測できますが、因果関係とまでは言えません。
とはいえ、この数字を業界全体の人材構造と並べると、状況の深刻さが増します。総務省「労働力調査」(令和6年平均)をもとにした国土交通省の資料によると、建設業就業者のうち55歳以上は36.7%、29歳以下はわずか11.7%です。60歳以上の技能者は全体の約4分の1(25.8%)を占め、10年後にはその大半が引退する見込みです(出典:国土交通省「建設業を巡る状況について」令和7年9月、総務省「労働力調査」令和6年平均)。
日本建設業連合会のデータでは、2024年の建設業就業者数は477万人で、ピーク時(1997年・685万人)の約70%にまで減りました。建設技能者に限ると303万人で、ピーク時(464万人)の約65%です。新規学卒者の建設業への入職者数も2024年に3.8万人と、11年ぶりに4万人を下回っています(出典:日本建設業連合会「建設業の現状」4.建設労働)。人が減り、高齢化が進み、そして現役の職人の84.5%が「次の世代には勧めない」と答えている。この三重の圧力は、技術の継承をさらに難しくする可能性があります。

職人が求めているのは、どんな取引環境か?

厳しい数字が並びましたが、職人自身はどこに改善の糸口を感じているのでしょうか。Q8では「施主と直接つながり、工事にかかるコスト構造(材料費、施工費、中間コストなど)や報酬条件が明確に把握できる取引環境があれば、働き方や業務が改善され、仕事への誇りも高まるか」を尋ねました。

出典:建築市場株式会社「建築施工職人の働き方と報酬に関する実態調査」(2025年11月、n=103)

「非常にそう思う」が29.1%、「ややそう思う」が49.5%。合計78.6%が肯定的に回答しました。「あまりそう思わない」は17.5%、「全くそう思わない」は3.9%です。
この設問は「施主との直接取引」「コスト構造の透明化」という具体的な条件を提示したうえでの質問です。一般的な「改善があればいいと思うか」とは性質が違います。それでも約8割が肯定しているのは、Q3の結果で見えた「報酬決定の過程が見えにくい」「交渉の機会が限られている」という課題と表裏一体でしょう。コスト構造が透明で、自分の技術に対する報酬の根拠が明確な環境──そこに期待が集まっています。

「対等な対話」が評価実感を生む

ここで、もう一つ注目したいデータがあります。Q4で「技術が正当に評価されている」と答えた31名に理由を尋ねたところ、1位は「元請けや設計者と、対等な立場で技術的な協議や提案ができるから」(45.2%)でした。2位・3位には「技術を理由に指名で仕事が来る」「施主や設計者から仕事の質を直接評価される」(ともに29.0%)が並んでいます。
注目したいのは、この「対等な対話」が必ずしも元請け・下請けの関係を否定するものではない、という点です。元請けや設計者との関係であっても、技術について率直に話し合える関係性が築かれていれば、職人は正当に評価されていると感じている。Q8の結果と合わせると、報酬の額面だけでなく、「技術について話し合える関係性があるかどうか」が、職人の満足度に大きく関わっていることがわかります。

制度と民間、さまざまな方向からの動き

制度面では、前述の改正建設業法(2025年12月全面施行)による標準労務費の導入が、取引の透明化を後押ししています。労務費の内訳明示が努力義務化され、著しく低い労務費での見積りや契約が禁止されました。国土交通省は2026年1月時点で型枠や鉄筋など13職種の基準値を公表し、さらに12職種の追加を進めています(出典:国土交通省「改正建設業法に基づく労務費の基準について」)。この制度は元請け・下請け双方にとって、取引の根拠を明確にする枠組みです。
こうした制度面の動きとは別に、民間でも家づくりの選択肢を広げる取り組みが出てきています。本調査を実施した建築市場株式会社が運営する「建築市場」は、注文住宅を建てたい施主と、建築士・職人をつなぐマッチングプラットフォームです。ハウスメーカーや工務店を通じた家づくりにはワンストップで進められる安心感がある一方で、「もっと職人と直接やりとりしたい」「コストの内訳を知りたい」というニーズもあります。「建築市場」は、そうしたニーズに応える選択肢の一つとして、施主と職人がコスト構造を共有しながら家づくりを進められる仕組みを提供しています。
大切なのは、「どの家づくりの方法が正しいか」ではなく、施主にも職人にも複数の選択肢がある状態をつくることでしょう。制度面での取引透明化、既存の住宅会社による処遇改善の取り組み、そして新しいマッチングの仕組み──さまざまなアプローチが重なることで、業界全体として職人の技術が評価される環境に近づいていく可能性があります。

「建築市場」サービス詳細:https://lp.kenchiku-ichiba.com/lp01

まとめ

ここまでの内容を整理します。
国の制度面では、公共工事設計労務単価の13年連続引き上げ、改正建設業法による標準労務費の導入と、職人の処遇改善に向けた枠組みは着実に整いつつあります。しかし、本調査が映し出したのは、そうした制度の恩恵がまだ十分に現場に届いていない状況でした。約8割が賃上げを実感できず、約6割が価格競争に巻き込まれ、約85%が次の世代に勧めたくないと感じている──報酬、評価、継承。3つの面で課題が重なっています。
一方で、約8割の職人が「施主との直接取引とコスト構造の透明化」による改善に期待を寄せていました。技術が評価されている職人の多くが「対等な立場での対話ができること」を理由に挙げていたことも印象的です。報酬の問題は「いくらもらえるか」だけではなく、「技術について話し合える関係性があるかどうか」にも深く関わっています。改正建設業法による取引透明化、既存の住宅会社による処遇改善、「建築市場」のような新しいマッチングの仕組み──さまざまなアプローチが重なることで、職人の技術が正当に評価される環境に近づくことが期待されます。
制度改正の実効性が問われるこれからの時期に、現場の声を知ることには意味があります。本調査が、建設業界の取引環境を考える一つの材料になれば幸いです。

本調査の詳細データについてのお問い合わせ:https://lp.kenchiku-ichiba.com/lp01

よくある質問(FAQ)

Q. 建築職人の賃上げは、実際にどの程度進んでいますか?

公共工事の設計労務単価は2025年度に前年度比6.0%引き上げられ、13年連続の上昇です。一方、建築市場株式会社の調査(2025年11月、一都三県の建築施工職人103名対象)では78.6%が「賃上げの恩恵を実感していない」と回答しました。特に民間工事の領域では、設計単価の引き上げが現場の報酬に直結しにくい状況があります。国土交通省の資料では、技能者の実年収(432万円)と設計労務単価ベースの想定年収(520万円)に約90万円の開きがあることも指摘されています。

Q. なぜ建築職人の技術は正当に評価されにくいのですか?

同調査で価格競争に巻き込まれていると回答した59名に理由を尋ねたところ、「中間マージンの多さ」(45.8%)、「相見積もりで適正価格が反映されない」(42.4%)、「価格交渉の場の不在」(40.7%)が上位に並びました。建設業界の分業構造の中で、各段階のコストが積み重なることや、価格を軸にした比較が行われやすいことが、職人の技術が報酬に反映されにくい一因になっていると考えられます。

Q. 改正建設業法の「標準労務費」とは何ですか?

2025年12月に全面施行された改正建設業法で導入された制度で、中央建設業審議会が職種別・地域別の適正な労務費基準を作成し、業界全体に示す仕組みです。見積書への労務費内訳の明示が努力義務化され、基準を著しく下回る見積りや原価割れ契約も禁止されています。2026年1月時点で13職種の基準値が公表済みで、さらに12職種の追加が予定されています。

Q. 建築職人の人手不足はどのくらい深刻ですか?

国土交通省の資料によると、建設業就業者のうち55歳以上が36.7%を占める一方、29歳以下は11.7%にとどまっています。建設技能者の総数は303万人で、ピーク時(1997年・464万人)の約65%にまで減少しました。本調査では84.5%の職人が「次の世代に勧めたくない」と回答しており、若年層の入職促進にとっても厳しい状況です。

Q. 施主と直接つながることで、職人にはどんなメリットがありますか?

本調査では78.6%の職人が、施主との直接取引でコスト構造が明確な環境があれば「働き方が改善され、仕事への誇りも高まる」と回答しています。中間マージンの削減による報酬の適正化に加え、自分の技術に対する直接的なフィードバックが得られることが、モチベーションの向上にもつながるでしょう。技術が評価されていると感じている職人の多くが「対等な立場での対話ができること」を理由に挙げている点も、この方向性と一致しています。


■ 調査概要

調査名称:建築施工職人の働き方と報酬に関する実態調査
調査方法:IDEATECHが提供するリサーチマーケティング「リサピー®」の企画によるインターネット調査
調査期間:2025年11月19日〜20日
有効回答:一都三県の建築施工職人103名(一人親方・個人事業主、企業所属の職人)
調査実施:建築市場株式会社(東京都豊島区、代表取締役:天野智弘)
出典URL:https://lp.kenchiku-ichiba.com/lp01

■ 本文中で参照した外部データ

国土交通省「令和7年3月から適用する公共工事設計労務単価について」:
https://www.mlit.go.jp/report/press/tochi_fudousan_kensetsugyo14_hh_000001_00261.html
連合「2026春季生活闘争 第3回回答集計結果」(2026年4月3日公表):
https://www.jtuc-rengo.or.jp/activity/roudou/shuntou/index2026.html
国土交通省「建設業を巡る状況について」(令和7年9月):
https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001566406.pdf
日本建設業連合会「建設業の現状」4.建設労働:
https://www.nikkenren.com/publication/handbook/chart6-4/index.html
内閣府「令和7年度年次経済財政報告」:
https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je25/pdf/p020002.pdf
国土交通省「改正建設業法に基づく労務費の基準について」:
https://www.pwc.com/jp/ja/news-room/2025/assets/pdf/construction-business-act-2507-002.pdf

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